宇多丸映画批評:野火

 大岡昇平による戦争文学の代表作の1つ「野火」。作家自身が第二次世界大戦中、激戦地となったフィリピンで従軍し、のちにレイテ島で米軍の捕虜となった経験をもつことから、その作品世界のリアリズムに裏打ちされた戦争という極限の場所に置かれた人間の狂気を描いてあまりあるものだが、今までに2回映像化が試みられているうち、作品出版から8年、終戦からもまだ14年目であった1959年に巨匠市川昆監督によって作られた大映版は登場人物の心理の掘り下げに重点を置き、カニバリズムなどの描写は避けた。

 今年2015年に塚本晋也監督によって新たに制作された「野火」は市川版のリメイクなどではなく、衝撃的だとも残酷すぎるだともいわれながらも、原作の持つ戦争の狂気を描き切った力作だと言える。安保法案や憲法の見直しなどによって「戦争」が今まで以上に自分の身近に「起こりうる危機」としてクローズアップされた昨今、是否を越えて見ておくべき映画の一つかもしれない。

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