ヤシマ作戦とはテレビアニメ第6話、コミックス第3巻、新劇場版「序」に登場した使徒殲滅作戦の正式名称です。
作戦を考案したのは、葛城ミサト一尉(後に三佐に昇進)。
一定距離内に進入した敵を加粒子砲で百発百中で仕留める攻撃、その目標は強力なA.T.フィールドによる防御と攻守ともに完璧な第5使徒ラミエル。
この使徒を倒すのに、接近戦では勝ち目がないため、超長距離から使徒を撃破するという作戦が組まれました。
砲撃担当は、エヴァンゲリオンとのシンクロ率が高いという理由から、初号機パイロット・碇シンジに決定。零号機パイロット・綾波レイが防御担当です。
ヤシマ作戦に至った背景
作戦実行前の初号機の敗退がきっかけでした。
使徒出現の連絡を受け出動した初号機。しかし、敵の攻撃パターンを知らずに出動してしまったため、地上に出た瞬間に加粒子砲を浴びてしまいます。
その衝撃は、初号機の胸部装甲を破壊した上に、シンジを医務室へ緊急搬送させる程の威力がありました。
使徒は、初号機を倒した後ネルフ本部への侵入を試み、地下へと穿孔(ボーリングのようにグリグリを地下を掘っている)を開始します。
ネルフ本部への到達は翌朝0時6分。残された時間は、10時間足らず。
この最悪な状況を打破するために考え出されたのが、このヤシマ作戦だったというわけです。
ミサト曰く、
「短時間で実行可能であり、最も敵を倒せる可能性のある作戦」
です。作戦の決行にあたり、手を貸した関係機関は日本全国に及びます。
ヤシマ作戦の概要
まず、敵を攻撃するための陽電子砲は、戦自研(戦略自衛隊技術研究所)が開発していたものを強制的に貸し出しさせ、突貫工事でネルフで改造したもの。
陽電子砲を撃つための電力は、日本全国を停電にし、全国の電力会社からかき集めたものです。これがミサトの
「シンジ君、日本中の電気あなたに預けるわ」
という台詞に繋がるわけです。1番問題だったのは、パイロットのメンタル面です。
エヴァンゲリオンに乗るたびに危険な目に遭うことから、搭乗を拒否するシンジが動けるかどうかが作戦成功の鍵でした。原作ではレイが、
「初号機には私が乗る」
と発言したことにより、渋々ながらも搭乗します。突貫工事に無茶振りと大混乱をしながら、どうにか必要なものが揃ったというわけです。
ヤシマ作戦の決行
0時ちょうど。初号機が、陽電子砲を発射します。
しかし、陽電子砲は直進しないため誤差を修正しながら発射しならず、失敗すると当然ながらやり直しになります。リツコからは機械操作に任せればよいと言われていたものの、緊張と焦りからか失敗してしまう初号機。
敵からの反撃に身構えるシンジ。そんな彼を救ったのが、零号機です。同じく突貫工事で作られた盾で、敵からの砲撃を防御します。零号機は17秒しかもたない盾で砲撃に耐えますが、その盾もみるみるうちに破壊され、最後には倒れてしまいます。
その後どうにか体制を立て直した初号機が2射目を発射し、どうにか使徒は殲滅。ネルフ本部への攻撃も止み、日本は束の間の平穏を取り戻しました。
劇場版の変更点
なお、テレビアニメとコミックスの内容はほぼ同じですが、新劇場版「序」では若干ストーリーに変更がありました。
・アニメと原作では第5使徒ラミエルとされているが、新劇場版では第6使徒と呼ばれるのみで名前が出ていない
・戦自研から陽電子砲を借りられた理由について、ミサトが「貸しがあるから」と説明している
・作戦決行直前でエヴァンゲリオンに乗ることを拒むシンジを、ミサトがセントラルドグマへ連れ出し、リリスと対面させた
・トウジとケンスケが、ネルフ本部宛にシンジを激励するメッセージを送っている
・作戦決行の時刻が違う
・初号機が地面に伏せて狙撃体制をとっている
・1射目と2射目の間、原作とアニメでは時間的な余裕もなく、攻撃→防御→攻撃だったが、新劇場版では使徒がすぐ反撃しなかったため、2射目を撃つまでに若干の余裕がある。その合間にゲンドウはパイロットを交換させようとしたが、ミサトが止めるというシーンが追加されている
・使徒が攻撃の際に変形を見せている
普段ネルフ本部からの指示でエヴァンゲリオンが戦っているところが多く描かれているため、他の部署の動きというのはよく分からないことが多いです。
しかし、このヤシマ作戦では、技術開発部や戦自研、そして節電に協力してくれた全ての国民、色々な人や組織が関わることでエヴァンゲリオンが戦えているという事実を、改めて教えてくれました。
ヤシマ作戦で見逃せない名シーン
戦闘前の会話
ヤシマ作戦の直前に使徒の攻撃で大きなダメージを受けたシンジにとって、再びエヴァに乗ることは苦痛以外の何物でもありませんでした。
「死ぬかもしれない」「怖い」
と弱音を吐くシンジに向けて、レイが発したひとこと。
「あなたは死なないわ 私が守るもの」
実際にレイはこの作戦で防御担当であり、シンジが砲撃に失敗しなければ登場する要素はなかったのですが、残念ながらシンジが1射目をはずしてしまったので、満を持してレイの登場というわけです。
シンジが逃げ腰になってしまうような威力の攻撃にひるむことなく、盾で応戦するレイ。盾の防御力>敵の攻撃であることは戦う前から分かりきっていることなのに、ギリギリまでこらえるのです。
盾が破壊されたら、今度は零号機本体で初号機の盾となり、最後は倒れます。そのおかげで2射目を準備する時間が捻出でき、使徒殲滅に成功したのですから、レイの貢献度合いはかなりのものです。
本来ならば守られるべき存在の女の子であるはずなのに、果敢に立ち向かうレイの勇敢さは、格好良いという言葉では表現しきれません。
ミサトは主に言葉でシンジに発破をかけるタイプですが、レイは行動で発破をかけるタイプですね。
(ミサトの口数がべらぼうに多く、レイの口数が極端に少ないので自然とそうなるのでしょうが・・・)
そもそもレイは上記の台詞の後に、「さようなら」と言い残しており、このことから死ぬ覚悟を持って搭乗していることが伺えます。
陽電子砲の攻撃を失敗することは考えるなとリツコに言われ、シンジも多少の危機感は覚えていましたが、レイはそれ以上に自分の防御担当しての役割を意識していたはずです。
はなからシンジが攻撃を失敗するだろうと見下していたわけではありません。ただ、防御担当と言われた以上、自分の仕事はきちんとこなす。
その中で敵の攻撃に倒れることがあっても、それが自分の責務であり、恐れることはない。別れ際に誰しもが言う「さようなら」という5文字の言葉ですが、戦闘の場面で聴くとこんなにも重みのある言葉はありません。
ヤシマ作戦で戦うレイの活躍を一言で表すならば、まさに有限実行です。戦闘シーンだけではなく、静かに思いをぶつけあう戦闘前の2人の姿も、見逃せない名場面なのです。
レイ、初めての笑顔
使徒殲滅後、自分を守ってくれたレイが生きていたのが嬉しくて泣くシンジ。
でも、レイは
「ごめんなさい。こういうときどんな顔すればいいかわからないの。」
と困ってしまいます。そこでシンジの
「笑えばいいと思うよ」
という言葉に、レイが穏やかな笑顔を見せるのですが、まさにこれが名場面なのです。レイと言えば無表情で何を考えているか分からない謎めいた女の子でした。
それが、シンジの言葉でこれ以上はないというほどの笑顔を見せてくれたのです。それまでのレイといえば、ゲンドウの前では感情を見せるものの、それ以外の人の前では鉄仮面でしたから。
シンジより長く一緒にいるはずの、ミサトやリツコでさえ見たことがありません。レイがゲンドウの前でだけ無表情ではなくなるのには、色々理由があります。
ゲンドウが司令塔であり、ゲンドウ自身がレイに執着しているのは勿論、レイ自身も自分の心の隙間を埋めてくれるのをゲンドウだと思い込んでいたからです。
零号機の起動実験が失敗に終わった際、自ら火傷をしながらもレイを救出したのはゲンドウでしたしね。そのような事情もあったので、シンジも「笑えばいいよと思うよ」と言ったら本当に笑ってくれるとは思っていなかったでしょう。
実際、原作のシンジは、レイの笑顔にびっくりして思わずたじろいでいます。この後からレイが少しずつ感情をあらわにするようになり、ロボットから人間っぽくなっていったので、ヤシマ作戦は2人にとっての大きな転換期と言えます。
使徒に勝利して終わりではなく、レイの笑顔でクライマックスを迎えるというのがとても印象的です。
ヤシマ作戦の名前の由来
作戦を発動した場所は二子山、作戦の考案者は葛城、パイロットは碇&綾波。
じゃあ、ヤシマって誰?何のこと?と思った方も多いでしょう。アニメでも原作でも、ヤシマというキーワードの説明もなしにいきなりミサトが「ヤシマ作戦開始!」と宣言します。
ここでいうヤシマとは、平安時代の弓の名手で那須与一という人物がいたのですが、その那須与一が活躍した屋島の戦いにちなんでつけられたものです。
長距離から相手の扇を打ち抜いたというのになぞらえて、エヴァも使徒を長距離から打ち抜くからとこの名前が採用されているようです。
ちなみに新劇場版では、日本の呼称の1つである大八洲国(おおやしまこく)の八州が由来となっています。これは、リツコの口から説明されています。いずれにしても日本古来の言い伝え、歴史が関係していることに変わりはないようです。
ミサトもリツコも科学の最先端で生きている人間なだけあって、理系の知識に長けているのは勿論ですが、このような文系の知識にも精通していることが伺える一面です。
ヤシマ作戦のうんちく
勝率8.7%
これは、スーパーコンピューターMAGIが計算したヤシマ作戦の成功率です。MAGIの予想が外れることがあるとはいえ、決して高い数字とは言えません。
逆に言えば、負ける確率が90%以上もあるというまさに無謀な戦いです。しかし、使徒を倒せる作戦を考えるのに、選択肢はそう多くはありませんでした。
攻撃の要となるエヴァンゲリオンは、零号機が調整中で実戦に適しているとは言い難い状態。初号機は1度敗退し、修理が必要。仮に修理を終えられたとしても、パイロットの精神面に問題あり。
陽電子砲は戦自研から徴発したものの、そこから実戦に耐え得るレベルに改造できるかどうかは時間との勝負。何か1つでも欠けていたら、ヤシマ作戦は失敗に終わっていたでしょう。
・陽電子砲の改造が間に合わなかったら?
・電力を一点集中させるシステムの構築が間にあわなかったら?
・日本中の電力をかき集めても、使徒を倒せるだけの力がなかったとしたら?
・シンジが2射目も外していたら?
・そもそも最初の戦闘で、エヴァが修理不能までに壊されていたら?
・使徒がネルフ本部への攻撃をスピードアップさせていたら?
この時はたまたま電力集中システムが時間内に出来上がり、陽電子砲の改造が間に合い、シンジが作戦決行前に目を覚まし、初号機も動かせる状態だったから、どうにか実行できたと考えた方が良いかもしれません。
人の命がかかった作戦がこんな不確定要素満載の中で実行されるなんて、冷静に考えると「失敗したらどうするんだ」と思ってしまいますが、みすみす敵にやられるのを待っているのはミサトの性分ではありません。
やれることはやっておく、それがミサトの考え方です。よって、MAGIが勝算8.7%という数値を出したのは決して計算誤りではなかったことが分かります。
明らかに失敗する要素の方が高かったのですから。使徒を殲滅できたのも、作戦の綿密さが勝ったというよりは、運によるものが大きいところです。
科学全盛の時代でありながら、最後は運に賭けるしかないところに、使徒との戦いの難しさを感じます。
このように、ヤシマ作戦は使徒殲滅という成果を出しただけではなく、この日を境に、シンジとレイの心の距離を僅かながら縮めたことでも印象的な戦いでした。
残念なのは、この後2人の関係が進展するのでは?と期待されたにも関わらず、その次のストーリーから弐号機とアスカが合流したため、劇的な変化はお預けとなってしまったところですね。
アニメが終了してから約20年の時を経てもファンが熱く語れるヤシマ作戦、その感動と魅力は今も健在しています。